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高松高等裁判所 昭和45年(ネ)105号 判決

控訴人(被告)

新居章

被控訴人(原告)

高谷兵三郎

主文

原判決中控訴人関係部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金一〇五万九、六五五円およびこれに対する昭和四〇年四月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人の控訴人に対するその余の請求を棄却する。訴訟費用(控訴人と被控訴人との間において生じた部分)は、第一、二審を通じこれを一〇分し、その九を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。この判決中被控訴人勝訴部分は、被控訴人において金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とする」旨の判決を求め、被控訴人は当審口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものとみなされた答弁書によると、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」旨の判決を求める、というのである。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、証人石川哲三の当審における証言を援用したほか、原判決事実摘示中関係部分のとおりであるから、それを引用する。

理由

一、本訴請求原因第一項の事実は、(五)の事故の態様の点を除いて当事者間に争いがない。そして、右の事故の態様の点についての当裁判所の認定と判断は、原判決七枚目裏一一行目初より九枚目裏一行目終まで(原判決理由三の被告林の責任と題する項)のとおりであるから、それを引用する。

二、本件自動車(加害車)が控訴人の所有に属することは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を綜合すると、控訴人は運送業者であり、かねてから徳島市沖ノ洲町所在の木材業者訴外井村功と取引があつたが、控訴人において本件自動車を運転し使用人の訴外高尾寛において控訴人所有の大型トラツクを運転して昭和四〇年三月一五日右井村功方に到着したこと、そして井村方で右トラツクに木材を積みこみ右高尾が運転し控訴人がこれに同乗して高松市へ出発することになつたので、本件自動車を井村方の作業場に置かせて貰うこととし、自動車の鍵を井村に預けて出発したこと、井村方の店員石川哲三は店員六、七名のうち最年長者で他の店員を監督するような立場にあり、現在は運転免許を有しないがかつては免許を有していたことがあり(更新手続を怠つて免許証を失効させた)、実際上井村方の自動車を運転して木材を運搬することもあつたところ、同月一六日午後三時頃本件自動車を運転することを告げて井村より鍵を受取り徳島市津田町にある原審被告林衛の家へ行つたこと、林衛の弟訴外林勲は井村方の店員であり林衛自身も時折井村方の仕事を手伝うこともあつたこと、ところで石川は林衛に自動車の運転をまかせ(林衛は免許証を有する)、林衛においてハンドルを握り、徳島市内をあちこちと乗りまわし、林衛の兄訴外林文明および林衛の女友達落合かずこを同乗させ、鳴門公園へドライブに行く途中本件事故を起したものであること、同月一八日の夜控訴人が本件自動車をとりに行つたところ、井村は「店員がちよつと乗つて行つている」と述べ、控訴人が「待つておろうか」と聞くと、「何時帰つてくるか分らない」と言うので、やむなく自動車を受取らずに帰宅したこと、以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実関係によれば、控訴人はもとより原審被告林衛に本件自動車を運転することを許諾したものではないが、訴外井村功に自動車の保管を託し自動車の鍵を渡したがゆえに本件自動車の運転が可能となつたのであるとともに、井村又はその関係者において本件自動車を運転することを全く予期できなかつたとは考えられないから、本件の林衛による自動車運転が控訴人の意思に全くかかわりなく発生したものということはできない。そして控訴人は、かねてから井村と取引があり、緊密な間柄であつたので、一時的に同人に自動車の保管を託したにとどまるから、本件事故当時においてもなお、控訴人は本件自動車の運行に対する支配力を失なつていないものと解することができる。そうすると、控訴人は自動車損害賠償保障法第三条にいう運行供用者であるというべく、本件交通事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

三、前認定(原判決の理由引用)のように、本件事故の発生につき本件自動車を運転していた原審被告林衛に過失があつたことは明らかであるが、小雪の降る深夜飲酒酩酊してジヤンパーを頭から被り道路橋の中央にうずくまつていた被害者高谷包文にも重大な過失があるというべきであり、その過失の割合は、被害者七割加害者三割とみるのが相当である。

四、よつて次に損害額について検討する。

(一)  逸失利益

〔証拠略〕を綜合すると、高谷包文は昭和九年八月一五日生れの健康な男子で事故当時土建業坂田輝次方に就労して日給金一、〇〇〇円を得ていたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。すると事故当時は三〇才七か月であるから、少なくとも向後三〇年は同程度の労働に従事することが可能で、月にして金二万五、〇〇〇円の収入を得ることができるものと考えられる。そして、同人の生活費は収入の半額と認めるのが相当であるから、これを控除して計算すると、同人の年間の純収入は金一五万円となり、三〇年後までの総収入から年毎に五分の中間利息をホフマン式計算法により控除して死亡時における現価を求めると金二七〇万四、三九七円となるところ、前記包文の過失の割合を斟酌し、控訴人の賠償すべき金額は、その三割の金八一万一、三一九円と認めるのを相当とする。そして包文の死亡によりその権利義務を被控訴人が相続したことは当事者間に争いがないから、被控訴人は右損害賠償請求権を承継したというべきである。

(二)  葬儀費用

原審における〔証拠略〕によると、被控訴人は、包文の死亡に伴う諸経費、葬式費用、供養費として、金一六万一、一二三円を支出したことが認められ(甲第九号証中の高谷呉服フトン代金六、八五〇円は証拠上因果関係が明確でないから削除する)、それ以上の支出を認定するに足る証拠はない。そして、前記包文の過失を斟酌し、控訴人の賠償すべき金額は右の三割の金四万八、三三六円と認めるのを相当とする。

(三)  慰藉料

被控訴人がその子である包文の死亡により多大の精神的苦痛をこうむつたことは容易に推認できるところであり、本件における一切の事情を斟酌し、金七〇万円をもつて妥当な慰藉料額と認める。

そうすると、被控訴人の損害は、合計金一五五万九、六五五円となるところ、被控訴人が自動車損害賠償保障法による強制保険により金五〇万円の支払を受けていることは同人の自認するところであるから、この金額を控除すると、控訴人が負担すべき損害賠償額は金一〇五万九、六五五円となる。

五、従つて、被控訴人の控訴人に対する請求は、金一〇五万九、六五五円およびこれに対する不法行為後の昭和四〇年四月一日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があり、その余は理由がない。

よつて、原判決を一部変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条第九二条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 橘盛行 今中道信 藤原弘道)

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